特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

第8章「前進」 2.本質的な魅力

あゆかわのぼるがNHK秋田放送局の番組でトトカルチョマッチョマンズの活動を紹介した月の翌月、1997年6月、夢広場21塾ヤング部会は一つの活動成果を雄和町に提出した。

ヤング部会は前年の8月に社会教育課・浦山の発案で雄和町の新成人に対するアンケート調査を行った。電卓を片手に行ったアンケート集計には難儀したが、やっとその集計もできあがった。ヤング部会のメンバーはアンケートの集計結果を基に、さらに自分たちの考えを加え「雄和町に若者を定住させるために何が必要か」という観点から行政への「提言」をまとめた。彼らが活動成果をまとまった文書の形で提出するのは、これが最初だった。

新成人に「生活の場としての雄和町」に対する意識を尋ねたアンケートの結果は、一言でまとめると、「雄和町は好きだが一生涯住んでいたいとは思わない」というものだった。

まず、「雄和町を好きですか」という問いに対しては、92%が「はい」と答えた。ただし、「雄和町に住んでいますか」という問いに対しては、「はい」が約6割、「いいえ」が約4割だった。「住んでいない理由」としては、「働く場所がないから」、「雄和町は田舎で、住んでいても遊び場所がないしつまらないから」、「自分の夢を実現できないから」という答えが多かった。

また、「もし、働く場所やさまざまな遊び場所などがあり、あなたにとって十分に満足できうる雄和町だったとしたら、本当に住んでもよいと心から思いますか」という問いに対しては8割を超える回答者が「はい」と答えたが、その「はい」と答えた人を対象に、さらに「一生涯雄和町に住んでいたいと思いますか」と質問したのに対する回答では、「はい」は42%にとどまり、「いいえ」が58%だった。
「いいえ」の理由としては、「交通の便が悪いから」、「働く場所がないから」、「何も魅力がないか」、「住宅がないから」という答えが書かれていた。

ヤング部会の部会員たちは、このアンケート結果を踏まえ、「若者を定住させるために」という前提から行政への提言を行った。キーワードは「本質的な魅力」だった。
彼らは次のように議論を展開していった。

雄和町だけではなく秋田県全体の問題として、地域に若者が住まないことが民力の潜在成長率を押し下げるなど「今、そのにある危機」をもたらしているが、行政はなんらの有効策を持っていないようにみえる。

雄和町が「ふるさと温泉ユアシス」を作り、秋田県が横手市に「ふるさと村」を作ったのは大いなるマスターベーションであり、作った本人たちは気持ちいいだろうが、若者たちは怒っている。

アンケートからも雄和町に足りないものは「魅力」だということを改めて確認した。その魅力とは、交通体系、職場、教育環境、住宅環境などのインフラではない。インフラ整備は二次的なものであり、もっと「本質的な魅力」がなくては逆効果である。例えば、秋田新幹線「こまち」が開通して便利になったというが、私たち若者が東京に行くのに便利になっただけで、東京の若者にしてみれば全然関係のない話なのである。

「本質的な魅力には普遍性が伴う」というのが私たちの考えである。率直に言うと、人間はアルコールを飲みたいのである。人間はセックスをしたいのである。人間はギャンブルをしたいのである。人間はスポーツをしたいのである。人間は音楽を聴きたいのである。踊りたいのである。人間は美しい絵画を見たいのである。素晴らしい文学に触れたいのである。

「本質的な魅力」を持つためには、次の課題を解決しなければならない。
「秋田をこう変えよう!」という本に「秋田県の振興は、意識の改革から」というくだりがあるが、確かに秋田県には「足ひっぱり」だとか「知らねふり(知らない振り)」といった体質がある。このような組織風土を改革して、率先して行動する人間を尊ぶ組織風土をつくらなければならない。さらに、そのための解決アクションとして「若者の、若者による、みんなのための政治」を提示する。
具体策としては、「町づくり委員会(仮称)」などを作り、そこで生まれた若者の考えを町づくりに具体的に反映させることが出来る仕組みづくりが重要だ。思い切って「町会議員の10%以上は25歳~35歳でなければならない」といった条例をつくればいい。

ヤング部会による「提言」の最後の部分では、谷岡一郎著「ギャンブルフィーヴァー」からラスベガスがギャンブル好きの人間のみではなく、全ての家族や団体を対象とし、そして各性別、各年齢層の快適さと楽しさを追求した結果としての都市であることを述べている箇所を引用して、イーストベガス構想を説明した。

雄和町そして秋田県には「魅力」が足りない。私たちの言う「魅力」を言語で表現することは非常に難しいが、ネバダ州のラスベガスが、地上で最も近い。
要するに、私たちは「秋田に賭博場をつくろう!」などという安易な考えではないのである。ギャンブルは「イーストベガス構想」に必要不可欠な要素であるが、「本質的な魅力」の一つに過ぎないのであってそれ以上でもそれ以下でもない。私たちはこの「イーストベガス構想」を実現させることにより、秋田を魅力ある地域にし、高校を卒業した18歳を、あるいは大学を卒業した22歳を、秋田に就職したいと思わせるようにしたい。また、自分たちの子供に「秋田は面白いところだから秋田にいなさい。秋田で自分の思うがままに生きなさい」と自信を持って言える環境を創りたいと思うのである。

この「提言」に対して、長谷川たちヤング部会メンバーの予想を超えた返答があった。雄和町長の伊藤憲一がA4版の用紙4枚に渡る長文のコメントを書いてくれたのだ。

それは「久し振りに青春の息吹を感じた-私の率直な感想です。かつて自分や自分達が追い求めた青春時代の思い出が蘇ってきます。それはいつも現状に対する不満であり、改革への挑戦であり、夢の実現に向けた実践でありました。」という文章で始まっていた。

伊藤憲一町長は若い頃、町役場職員としての仕事の傍らで青年会活動に没頭した経験を持っていた。その活動の中で、自分たちが町長役や町議役に扮して行う「青年婦人議会」を開催したが、その青年婦人議会が終わった時に本物の議員から「なまいきだ、役場を首にしてやる」と言われることも体験していた。そうした経験から伊藤町長は、イーストベガス構想を掲げて模索を続けている長谷川たちヤング部会メンバーに対する共感を抱いたのだ。町長は、たとえ奇想天外な発想だったとしても目標に一途に向かっていく若者が好きだった。

伊藤町長は、イーストベガス構想を含むヤング部会の提言についてこう述べた。

秋田を変えるために旗を振る、世界に向けて旗を立てるのが雄和町の役割だという捉え方は全く私の意図するものと軌を一にするものです。

イーストベガス構想も大変興味深く、「制約条件は解除の対象である」という主張を持ってすれば不可能であるはずもないのでありますが、そのためには皆さんの今の気持ちを生涯持ち続けることであり、雄和町や秋田を変えようとするならば皆さんの主張の輪を広げ、共感を得ることが必要となります。
雄物川高校バレー部の宇佐美監督は「一人で見る夢はただの夢、みんなで見る夢は実現する夢」といっております。皆さんは今、みんなで夢を見ている段階だろうと思いますが、実現のためのプロセスをどう組み立てるかがこれから最も大事になろうかと思います。

長谷川にとっても予想外のコメントだった。行政担当者がヤング部会の提言を正面から受け止め、こんなに親身になって考えてくれるとは期待していなかった。しかもそれは雄和町の行政の責任者、町長が自ら記してくれた言葉だった。伊藤町長がイーストベガス構想について決して否定的な言葉は使わず実現に向けたアドバイスをくれたことに、強い力で背中を押されたように感じていた。