特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

第1章「邂逅」 6.夜のストリップ

初めてのカジノ体験を終えてホテルを出ると、空はもう暗くなっていた。長谷川たちは来た道をインペリアル・パレスに向かって戻り始めた。昼間のストリップは青空の下で明るさに満ちていたが、夜のストリップは一層華やかな気配がいっぱいだった。各ホテルは色鮮やかなイルミネーションによってライトアップされ、暗闇を背景に華麗な姿を浮かび上がらせている。ルクソールの黒いピラミッドの頂点からは、天空に向けて強烈なレーザー光線が照射されていた。広告塔は派手な照明やネオンサインでナイトショーを宣伝している。華美な光でショーアップされたストリップは昼間と変わらず大勢の観光客でごったがえしていた。

長谷川はここでもロサンゼルスとの違いを感じずにはいられなかった。夜のロサンゼルスには怖さがあった。ホテルを出て外を歩くと、「ギブミー、チェンジ」と小銭を要求する男が近づいてきた。初めての海外で夜の街を楽しみたい気持ちがあったのだが、警戒感の方が先に立って夜はホテルの部屋へ逃げ込むように帰る毎日を過ごしていたのだ。ストリップのカラフルな照明に照らされている観光客たちの陽気な顔を見て、長谷川はラスベガスを危険な街と思い込んでいた自分の無知を思った。

多彩な光があふれるストリップの豪華絢爛な情景を楽しみながらストリップを歩いてきた長谷川たちは、フォーコーナーまでたどり着いた。フォーコーナーの一角には色鮮やかな明るいピンク色のネオンサインが光っていた。それは全体が花びらのような形でフラミンゴの羽をかたどっている。長谷川はそのネオンサインに見覚えがあった。ガイドブックかパンフレットで見たのだろうか。「フラミンゴ」は観光都市・ラスベガス発展の礎となったホテルであり、フラミンゴの代名詞とも言えるそのネオンサインは今もラスベガスの象徴だった。

 

長谷川と友人はフォーコーナーを通り過ぎて、再びストリップ散策の出発点、ホテル・ミラージュに近づいた。するとホテル前の一角に観光客が大勢集まっていた。長谷川たちは観光客たちをかき分けるように前に進み出た。ミラージュの前庭にはヤシの木に囲まれた大きな池があり、そこには岩の壁伝いに滝が流れ込んでいる。周りにいる人々の期待感を露わにした表情を見ると、これからこの前庭で何かが始まるようだ。観光客たちと一緒に待っていると、やがてどこからか不気味な音が聞こえてきた。地の底からとどろくようなドラムの音だ。それと同時に、滝が流れ落ちる岩山に変化の兆しが現れた。突然、山が火を噴いた。その山は火山だったのだ。火山は本物の火柱を高く噴き上げた。観光客から歓声が上がる。長谷川と友人も予期せぬ火山ショーに目が釘付けとなっていた。

こんな凄いショーまで無料で見せるのか。それは驚き以外の何物でも無かった。長谷川は、ラスベガスに着いてから今までの体験を思い返した。目にするもの全てに驚愕し興奮しながら、時間の経過も忘れてここまでたどり着いた。

はっきりしたテーマを持つホテルの外観、世界の一流商品が集められたショッピングモール、華麗なショー、人を興奮に巻き込むカジノ、スリリングなスポーツゲーム。ラスベガスは、24時間休むことなくあらゆる手段で観光客を歓迎し、あらゆる娯楽を提供している。すべての人を楽しませる、その事がこの街にとって唯一の関心事なのだ。

肌に熱が伝わってくるような炎、動き回る光、心を揺り動かすような太鼓の音。目の前で繰り広げられる火山ショーのスペクタクルに圧倒されながら、長谷川はラスベガスに到着した時に聞いたガイドの言葉を、もう一度噛みしめていた。

 

「ここは大人が子供になれる場所、大人のディズニーランドです。楽しんでいってください。」

 

1996年2月末の事だった。