特定非営利活動法人
イーストベガス推進協議会

IRと交流観光を新たな柱に インバウンド先進地の北海道、神観光振興監に聞く

>モデル地区を道央、道南、道北、道東からそれぞれ1カ所ずつ計4カ所を選定し、7月中には確定する予定です。

いいプロセスで進んでいて、羨ましい限りです。

 

「観光立国」キーパーソン

IRと交流観光を新たな柱に
インバウンド先進地の北海道、神観光振興監に聞く

[日経ビジネス オンライン 2014年7月23日(水)]

2013年、北海道を訪れる外国人は100万人を初めて突破し、日本のインバウンド客の約1割を支え続ける。都道府県別で見た宿泊数でも、北海道は306万人泊(外国人数と宿泊数を掛けた数)と昨年から53%増え、東京都、大阪府に次ぐ第3位。観光立国・日本をけん引する“優等生”で、他の都府県が学べることも多い。IR(統合型リゾート)導入にも取り組んでいる北海道の国際観光政策を司るトップが、2020年のインバウンド2000万人時代に向けて、次なる目標を語る。
(聞き手は大村 洋司=海外事業戦略室)

-近年、東南アジアからの訪日客が急増していますが、北海道はいかがでしょうか。

神 姿子(じん しなこ)
北海道 経済部 観光振興監
1957年生まれ。1979年北海道庁に入庁。総合企画部政策室主幹、知事政策部知事室国際課長、総合政策部地域づくり支援局長、石狩振興局長などを経て、2014年4月より現職。(写真:村田 和聡)

:2013年に北海道を訪れた外国人の数は、前年比34.2%増の101万4700人と、初めて100万人を突破しました。中でもタイの伸びは目覚ましく、前年の3倍以上にあたる7万3000人が訪れました。インドネシアのデータはありませんが、マレーシアからの来訪者数は3万3200人で、前年比56%増となっています。

北海道では中国、タイ、マレーシア、インドネシア、ベトナム、フィリピンを今後成長が期待される「成長市場」、台湾、韓国、香港、シンガポール、オーストラリアを「成熟市場」と位置付けています。中国は都市によって見方が異なり、上海や北京はリピーターやFIT(Foreign Independent Tour=個人旅行)も多く、成熟市場に近い形ですが、広州など他の都市は団体旅行が中心で、成長市場ととらえています。

インドネシア、ベトナム、フィリピンではまだ北海道の知名度があまり高くないので、今年度はこの3カ国を対象に重点的な市場開拓を行っていく予定です。現地の旅行博に出展したり現地セミナーを開催するほか、現地のメディアや観光関係者を北海道に招いて観光地を見てもらうなどして、情報発信や旅行商品開発につなげる取り組みを進めていく予定です。

北海道を訪れるインバウンドの団体客と個人旅行客(FIT)の割合を教えてください。FITは増加しているのでしょうか。

:観光庁が行った2013年訪日外国人消費動向調査によれば、団体旅行の割合が日本全体で26%なのに対し、北海道では62%とかなり割合が高いです。北海道を訪れる外国人観光客の約4割が台湾からで最も多いのですが、観光バスを使った団体旅行が中心となっています。

一方で、北海道を訪れる外国人のレンタカー利用者数もかなり伸びています。北海道地区レンタカー協会連合会のデータによれば、2013年度は1万7432人で前年比73.6%増となり、FIT客が増えているようです。

この連合会に加盟しているのは北海道にあるレンタカー事業者の約16%なので、全体を網羅しているとは言えませんが、新千歳空港周辺で営業するレンタカー事業者が入っているので、外国人の旅行傾向を読み取る一つの目安になると思います。国・地域別に見ると、香港の利用者数が最も多く、全体の約半数を占めています。香港は同じ右ハンドルなので、運転しやすいというのもあるかもしれません。

 

-インバウンドFIT向けの施策は。

:成熟市場に位置付けられる台湾、香港、シンガポールなどを対象に、国・地域別のニーズに合わせた個人旅行者向けのモデルルートを作成し、海外の旅行博などでPRをしていきたいと思います。

 

この課題について、何か具体的な取り組みはありますか。

:既にメディアでも何度か取り上げられていますが、道北の歌登温泉にある「うたのぼりグリーンパークホテル」という宿泊施設が、タイからの観光客をたくさん誘客していることで注目されています。餅つきやたこ焼き作り、流しそうめんなど様々な日本の文化体験をできるのが売りで、そうしたイベントでは地域住民も参加して交流します。新千歳空港からバスで5~6時間かかる一軒宿ですが、毎年来ているというタイの方もいて、「道内のいろいろな観光地を回った中で一番楽しかった」と答える方も多いそうです。

こうした成功例を参考に、道内各地で交流参加型の観光地づくりを進めようということで、今年度から「交流参加型国際観光地づくりモデル促進事業」という新事業を始めました。

地域特有の文化や資源を生かし、観光業者だけではなく地域住民も参加し、地域が一体になって外国人観光客をおもてなしできる取り組みを進めたいということで、全道からモデル地区を募り、各地域の特性を生かした受け入れ態勢づくりを進めようと考えています。そこからさらに、全道各地へ新たな観光地づくりを広げていこうと考えています。

モデル地域は、もう選定されたのでしょうか。

:10カ所ほどから手が挙がりました。モデル地区を道央、道南、道北、道東からそれぞれ1カ所ずつ計4カ所を選定し、7月中には確定する予定です。通常、こうしたケースでは事業を委託する民間業者と地域が別々に選ばれますが、今回はまずやる気のある地域が手を挙げ、業者側が一緒に組みたいところを選び、やる気のある地域と事業者がペアリングして応募する形になっています。

「北海道型IR」の取り組みを進める

カジノを中心とした統合型リゾート(IR)を推進する「IR推進法案」の国会審議が6月に始まり、秋の臨時国会で継続審議が予定されています。北海道ではIRについてどのように取り組む予定でしょうか。

:今年度の新事業として、北海道でのIR実現の可能性や期待される経済効果、懸念される社会的影響や対策などについて、民間の専門家に委託して調査を実施します。

その調査結果を受けて、北海道にふさわしいIRのあり方について、道としての基本的な考え方をとりまとめたいと考えています。4月には道の職員が韓国へIRの視察に行き、ギャンブル依存症などマイナス面の対策についても関係者からいろいろ実情を聞いて勉強してきたところです。

基本的な考え方を整理した上で、道民の皆さんにIRについて理解していただくためのセミナーを道内各地で開催したり、海外の事業者に対する情報を提供していきたいと考えています。また、国に対しても、北海道型のIRの実現が可能になるような制度設計の働きかけをしていこうと考えています。

また、今年度の新事業として、多言語の情報発信ができる人材育成事業を行います。北海道に訪れる前や来訪中に寄せられる外国人観光客からの問い合わせに対して、電話やメール、スカイプなどを使い、二次交通や観光情報をきめ細やかに提供できるよう体制を整備していきたいですね。併せて、観光案内標識の多言語化も進めていきたいと思います。

繁忙期の一極集中をどう緩和するか

昨年の夏の繁忙期、台湾のツアーに対して大量の観光バスが不足する事態が起こりました。今後、インバウンド客が増加すれば、この問題はさらに深刻化する可能性があります。道としては、どのような対処をお考えですか。

:バスはもちろん、運転手不足は特に深刻な課題です。今年の夏、大型クルーズ船の北海道への来航回数が7~8月は昨年の4倍以上となるほか、海外からのチャーター便も多く運航する予定とあって、昨年同様の事態が懸念されます。

そこで、6月26日に国交省にバス営業区域の緩和を北海道観光振興機構と共に要望したところ、6月30日付で東北運輸局管轄内の貸切バス事業者が道内で営業できる措置がとられました。実際に利用するかどうかを決めるのはバス事業者ですが、必要な場合は、東北のバスと運転手が北海道でも営業できる枠組みができた形です。

道内には264社のバス事業者がありますが、昨年のバス不足を受け、道では各社に手配状況のヒアリングを行い、常に状況を把握できる体制を作っています。その上で、必要に応じて国にお願いするという方法をとっています。

しかし、営業区域の緩和というのは、あくまで期間限定の緊急措置です。インバウンド客を将来増やしていくには、やはり制度や構造そのものを根本的に見直す必要があります。短期的な対応と合わせ、関係機関と中長期的な見通しを考えた対策について、協議の場をつくることにしています。

平準化が今後の大きな課題に

観光バスと運転手の需要が多くなるのはいつ頃でしょうか。

:7、8月と1月後半から2月が繁忙期で、いずれも国内需要とインバウンド需要が重なります。10月、11月、3月は閑散期で、繁忙期とはかなりシーズナリティーの差があります。

そういう意味でも、シーズンの平準化は今後の大きな課題です。バスと運転手を確保できても、ピーク時しか稼働しないのであればバス会社もペイしません。需要の一極集中を緩和するという意味でも、インバウンドが団体旅行から個人旅行にシフトしていくようなプロモーションを成熟市場に向けて行っていこうと思っています。

インバウンドに関して、ほかに課題とされることは。

:現時点でも、繁忙期の道央はホテルが既に満杯の状態です。来訪者数をさらに増やしていこうという中、札幌や従来の定番観光地だけでは受け入れのキャパシティーはとても足りません。そういったことから、全道全域に観光地としての受け皿となる基盤を広げていきたいと考えています。

道内で、IR誘致に積極的に動いている自治体はありますか。

:北海道では、釧路、小樽、苫小牧の3市が手を挙げてIR誘致の意思を表明しており、いずれも市長がその意思を知事に直接伝えています。地元の商工会議所など民間の「ぜひIRを誘致したい」という声を道にいただいた形です。これらの3市は海外へ現地調査に行ったり、積極的な情報収集を自主的に行っています。当面はこの3市と連携を図りながら、調査や道民の理解促進などを進めていきたいと考えています。

北海道型のIRというのはどんなイメージでしょうか?

:アジアのIRはマカオやシンガポールなど、温暖な地域にあることが多いですね。雪が降るような気候の地域でのIRというのは珍しいということで、海外の事業者からも、IRとしての北海道に対する関心は非常に高いと感じます。

北海道には自然や食、冷涼な気候など東南アジアにはない独自の特性、魅力があります。一度訪れた人の口コミもあり、アジアの多くの国々では、「Hokkaido」というブランドは強いのです。その魅力と組み合わせて北海道にふさわしいIRのあり方を考え、さらにインバウンドの増大を図って観光立国の実現にも一定の貢献をしていきたいと思います。


 

ソース:http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140716/268779/?P=4&ST=world